『平清盛』観終わった

 NHK大河ドラマ平清盛』を、一話も漏らさずに全部観た。私が過去に一話も漏らさずに最後まで観きった大河ドラマは、これ以外では『坂の上の雲』のみである。
 個人的な評価としては、大河ドラマ史上稀に見る傑作であったと思う。インテリ向けに作られていたため視聴率は振るわなかったが、それこそ正しく誉れである。
 それにしても、自分の理想の国創りを理解しない諸反乱軍への平清盛の怒りは、スタッフの「こんなに良い作品を創っているのに、何で皆は解ってくれないんだ!」という苛立ちを代弁するかの様であった。
 私は隠れた理解者として、本作品を振り返ってみたいと思う。強く評価したい点と、不満点とを、それぞれ三つずつ列挙する。
評価その1 松山ケンイチ
 松山ケンイチ氏は、あの若さからは想像もつかない程の様々な役をこなしている天才である。年齢によって全く異なる性格の人物の一生を描くには適材であったと言える。
 松山氏が主役だったからこそ私はこの作品を観始め、そして見終える事が出来た。心から感謝する。
評価その2 伏線
 この作品は伏線の張り方が見事であった。それを回収する際の、回想シーンとの対比も見事であった。
 この全部の話を観てきた人への過剰なまでのサービスは、視聴者の新規参入の障壁になったかもしれない。だがそれでいい。
評価その3 複雑な勢力関係
 貴族・武門・寺社と、登場する諸勢力の合従連衡がかなり複雑に描かれていた。
 但し、有力な寺社の内部事情がほとんど描かれず、いつも単に異界から無理難題を押し付けにやって来る異形集団としてのみ描かれていたのは減点要素。
不満その1 「悪」
 当時は称賛の意味合いが強かった「悪」を、現代風の意味で解釈していた。このため藤原頼長を批判する者の方が好んで「悪左府」という言葉を使うという、逆転現象が起きていた。
 頼長から苦痛を伴う厳罰を与えられた鬼若が「悪左府!」と罵り、それを聞いた頼長が罰を一層重くする場面は、最悪である。
 この場面を無理に整合的に解釈するなら、鬼若は苦行が大好きで、厳罰を与えられた途端に歓喜の余り「(我々の業界では御褒美です。いや、変な意味ではなく本当に。イヨッ!)悪左府!」と叫び、頼長はその想いに応えた事になる。
 何となく、この解釈で同人誌を書きたくなってしまったではないか!
不満その2 禿
 兵庫県知事に「汚い」と罵られても頑なに当時の汚い京都を描き続けていたというのに、終盤で日和見をしてしまったのか、やたらと現代的感性に従ったファッションのカムロが登場してしまった。
 しかも奇抜なファッションの見回り組ならば、その役目は熱心な諜報活動ではなく沈黙を強制する威圧であるべきなのに、この連中ときたら目立つ服を着ながら物陰に隠れて一生懸命反平家言論を探し回っているのである。二重の意味で駄目である。
 これは、虚構新聞の皮肉(http://kyoko-np.net/2012042501.html)が現実化したかの様な悪夢であった。
不満その3 源為朝
 『保元物語』にかなり忠実に大活躍をした源為朝、戦が終わった途端に消えてしまった。さして活躍しなかった兄達は処刑の場面でそれなりに印象を残したのだが・・・。
 「中央の戦争に負けて伊豆に流された男が現地で再起を図る」という図式は源頼朝の先駆であり、せめて話題にだけでも出してやれば、頼朝を重視したこの作品に彩りを添えたと思うのだが・・・。
NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 第1部 DVD BOX

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NHK スペシャルドラマ 坂の上の雲 第2部 DVD-BOX

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坂の上の雲 第3部 DVD-BOX

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保元物語 (岩波文庫)

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