『エクソシスト ビギニング』が突きつける、「ナチスが白人を相手にやった事は、周辺諸国が有色人種を相手にやった事と同じ」というメッセージ

エクソシスト ビギニング [DVD]

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 第二次世界大戦後のヨーロッパではしばしば巨悪の例としてナチスが挙げられる。それが所謂庶民感情というものである。
 そして極一部の慧眼の士が、「ナチスが白人を相手にやった事は、周辺諸国が有色人種を相手にやった事と同じ」とインテリを相手に伝道しているのだが、余り影響力は無い。
 そうした中で、『エクソシスト ビギニング』は例外的に、大衆向けの娯楽映画でありながら、このメッセージを上手に伝えている。
 ナチスに対してトラウマのあるメリンは、物語の序盤でアフリカ駐留のイギリス兵の軍靴の音から、ナチス兵の軍靴の音を連想している。
 これがただの連想ゲームではなかった事は、後半で判明する。イギリス兵は現地の黒人を人間として認めずに、気軽に殺してしまうのである。
 それに付随して、メリンのトラウマとなったナチス関連の思い出が何度も強調され、両者の本質が同じものである事が解りやすく描かれているのである。
 「ナチスが悪であり、人が平等であるなら、イギリス等の周辺諸国も負けず劣らず悪ではないか?」というインテリ向けの意見を、実に上手に伝えていると言える。
 これだけ解り易ければ、名作『エクソシスト』の関連作品だからという理由やお色気シーンがあるという噂に惹かれてふらふらと映画館に寄っただけの人でも、メッセージを容易に受け取れる筈である。
 
 因みに、このメッセージを理解しないでナチスこそ最大の巨悪だと思い込んでいるヨーロッパの凡人を、私はさして軽蔑していない。地理的にドイツに近く、人種的に白人が多いのであるから、素朴な庶民感情として自分が聞いた伝聞を中心に是非善悪の序列を定めてしまうのはある程度は仕方がない事である。
 白人でもなくヨーロッパ在住でもない日系日本人が、自分の気に食わない団体にレッテルを貼る際に、欧米列強の植民地支配も大政翼賛会紅衛兵もクメールルージュも全部例え話に使わず、いきなり「ネオナチ!」と叫ぶ事こそ、問題である。
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