誰もが「騙された」人なのだ。

 幸福の科学の欠点を愉快な文体で告発し続けている「サンポール」(http://sanpole.blog.fc2.com/)というブログがある。その中にある元信者に向けたメッセージ記事「【020】 元信者のみなはん、自信を持ちましょう!」(http://sanpole.blog.fc2.com/blog-entry-68.html)の中には、「元信者のみなさんや、「信者を辞めようか」と迷っているみなさんは、自分がこんな宗教に騙されていた事を恥ずかしく思ってはいないでしょうか? 「こんないんちき宗教に騙された自分はどこかがおかしい」と自分を責めてはいないでしょうか?(原文改行)もしそうでしたら、一刻も早くその考えは捨ててください。みなさんはたまたま宗教に騙されただけで、他の人は別のものに騙されているケースも多いからです。あなたを笑う人がいても、その人だって別のものに私たちより騙されているケースがあるのです。」とある。
 私も完全に同意見である。宗教に騙された事が他の何かに騙された事よりも恥ずかしいというのはおかしい。これは元信者諸氏のみならず、宗教の被害者を馬鹿にするのが趣味の方々にも読んで欲しい名文である。
 そして私からも、もう一つこれに酷似した主張がある。「自称一般人とて大概はカルトに騙された経験が有り、信者との違いは程度に過ぎない。」この真理を通じて、元被害者には程々に自信を持ってもらい、自称無被害者には自分も被害者の一員であるという自覚を持ってもらいたい。
 かつて日本では、麻原彰晃という宗教家が目立った活動をしていた。ある者は彼を称賛し、ある者は彼を馬鹿にし、ある者は坂本堤弁護士一家殺害事件の主犯ではないかと疑った。だが「いかにも首都で大規模な無差別テロを起こす準備をしてそうな奴だな!」という適正な評価を下していた者は、実際に無差別テロが起きるまでほとんど居なかったのである。
 テロの後で「俺は麻原が最終解脱者じゃない事を見抜いていたぜ。それに比べて信者は馬鹿だったなぁ。」と言った所で、「麻原を実態以上にはまともな人間だと評価していた」という点では信者と同じである。
 何でもかんでも「五十歩百歩」で済ませてしまうのもいけないが、だからといって何でもかんでも二分論で対処するのもおかしい。これは私が丸山眞男から唯一学んだ真理であり、また丸山を評価する唯一の理由でもある(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20090614/1244906691)。
 そして人間が全知でない以上は、認識と実態が一致する事態の方が稀であり、その意味で「騙される」というのはさして特別な事ではない。程度が違うだけの話である。相手に騙す意思が無くても人は勝手に騙される。これは私がキュゥべえから唯一学んだ真理である。
 そういう訳だから、日本中のほぼ全ての人が、ある意味では「カルトに騙された経験の有る人」なのである。自分がカルトに騙された経験の有る少数派だと思っていた人には自信を持って欲しいし、自分がカルトに騙された経験の無い多数派だと思っていた人には過信を戒めて欲しい。
 
 付録として、私の経験も書いておく。
 十年以上前、前世紀末に書かれたノストラダムス関連本を集めていた。その中には大川隆法著『ノストラダムス戦慄の啓示』(幸福の科学出版・1991)もあった。私が読んだ時点では既に外れていた予言もあったので、流石に内容は全く信じなかったが、やたらと改行が多い点は全く気にならなかった。古本屋で安く買ったから費用対効果に気付かなかったのだろうし、またノストラダムスの四行詩のイメージに引き摺られていたのだろう。
 それから何年もの時が経過して、2009年末に久方振りに大川氏の著作を立ち読みした。文字は馬鹿でかく、余白も多かった(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20091227/1261846073)。そしてこの時になって漸く、『ノストラダムス戦慄の啓示』の手抜き具合に気付いたのである。
 「あー!騙された!」
 そして2012年の夏になって漸く、海外巡錫とかで色々騒いでいた幸福の科学が、日本の新興宗教の中でもかなり無名な方である事を知った(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20120729/1343502816http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20120731/1343665438)。
 「あー!騙された!」
 2012年末、どうせいつもの誇大広告だろうと思いながら大川隆法著『ジョーズに勝った尖閣男』(幸福の科学出版・2012)を読んだら、予想以上にガッカリさせられた(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20121124/1353766684)。
 「あー!騙された!」
 大金を失ったり経歴に傷がついたりしなかったので目立たないだけで、内実としては何度も何度もこうして認識を改めさせられたのである。
 「あたしって、ほんとバカ」
 
 だが、もしも認識を改める事を愚かしい高慢さの故に頑なに拒否していたならば、馬鹿を通り越していただろう。
「子夏曰 小人之過也必文」(『論語』子張篇より)

丸山眞男集〈第6巻〉一九五三−一九五七

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