「ウナギの持続的利用は可能か うな丼の未来」(東アジア鰻資源協議会 公開シンポジウム)に行ってきました。

 本日は物凄く体調が悪かったのですが、鰻問題に関する情報を少しでも知りたく思い、また得た情報をネットで少しでも公開するべきだと思い、ふらふらになりながら公開シンポジウム「ウナギの持続的利用は可能か うな丼の未来」(http://easec.info/EASEC_WEB/index.html)に行ってきました。体調上の理由から色々と不完全な報告になりましたが、興味のある方は読んで下さい。
GCOEアジア保全生態学からの挨拶 鷲谷いづみ
 鷲谷氏の著作は何冊も読んでいた私は、鰻は少々専門外だろうから表面的な挨拶に止まるだろうと思い込んでいました。しかし鷲谷氏は部下の海部健三氏の研究を良く勉強していたため、いきなり情報量の多い挨拶になりました。
 養殖鰻は食べるには良いが自然界に放すと直ぐ死んでしまう事や、養殖鰻は遺伝子の多様性が低いので病気とかが心配な事等が語られました。
 なおここで言う「養殖鰻」とは、受精卵の段階から人間が面倒を見ているタイプのものを指します。後で紹介しますが、別の意味を持つ事もあり、今まではそっちの方が主流だったので注意が必要です。
基調講演「ニホンウナギとともに生きる」 塚本勝巳
 最初に本当の意味で「鰻と生きる」を実践しているマオリ族の人々が紹介されました。彼等は鰻を食資源として利用するのみならず、畏れ、敬い、愛しており、神話・伝説・文学・芸術にしているとの事。
 そして本題の、ニホンウナギが成魚もシラスも40年間減り続けてきたという話。原因として乱獲・河川環境の悪化・海洋環境の悪化が挙げられていました。
 亜種鰻の輸入については、逃げたら外来種になる事や、自分達の鰻を食べ尽くしたら次は他国のものを食い散らかすというのは道徳上の問題がある事等から、反対の姿勢を示していました。
 ニホンウナギは産卵場がマリアナ海溝にある国際資源なので増やしにくいという話もしていました。
 あと、今まで養殖に使うシラスは原則として捕まえたものだったのであるから、「養鰻業」は養殖ではなく漁業だという自覚を持つべきだという話も出ました。これに共鳴したので、私は今後なるべく「鰻の養殖」という言葉を限定的に使う事にしました。
 そして受精卵から育てる本物の養殖技術を発達させ、工場内と野外とを切り離し、野外の鰻は鑑賞用のためだけにせよと提言していました。
 最後の五大提言は、1「まずは下りの銀鰻の法的規制」・2「異種鰻の禁止」・3「鰻川計画(これは後に篠田章氏が詳細を語る)の推進」・4「完全養殖化」・5「消費者意識の改革」でした。
日本人はウナギをどう食べてきたのか 勝川俊雄
 消費者が危機を実感しないのは輸入により供給は寧ろ増えたから。ハレの日の外食から家庭の手抜きメニューへ。
 一方、日本人の購買力に負けてヨーロッパの鰻食文化が消失し、日本の技術による代用食品が売れるという笑えない状況だそうです。
 日本人は今まで、他の魚に対しても「乱獲→足りなくて輸入→それでも足りなくなり魚離れ」をしてきたそうです。例えば日本では0〜1歳の鯖も捕まえて、養殖魚の餌にしたりしてしまったそうです。
 一方、ヨーロッパは上手に持続的漁業をしているそうです。
 漁師・企業は規制が無いと競争原理から乱獲をしてしまうという「共有地の悲劇」系の話も出ました。だからこそ国が動くしかないのですが、国も民意無しでは動き難いとも言われました。急がば回れの精神で、先ずは国民意識を変えようというのが結論でした。
ウナギの資源評価 田中栄次
 統計学的には鰻はそんなに減っていないという話が始まりました。
 私は別に自分の思想と適合しない話を聞きたくなかった訳ではなく、寧ろ聞きたかったのですが、体調不良のためトイレに駆け込んでしまいました。
 戻ってきたら、塚本氏ですら「目から鱗が落ちた」とか評価していました。
 「この話の続きは総合討論で」みたいな流れになったので楽しみにしていたのですが、総合討論では全くこの話は出ませんでした。
IUCNウナギレッドリスト会議報告 海部健三
 ウナギレッドリストについては、まだ決まっていないので予断は語れないそうです。しかも会議の内容すら話せないとか。
 で、何の話だったかと言うと、レッドリストに法的拘束力は無いとか、レッドリストと言っても「絶滅」から「軽度懸念」まで七種あるとか、会議のジェンダーバランスが1:1に近かったとか、IUCNの報告書を考慮するCITEにも法的拘束力は無いとか、そういう話でした。
 あと、ヨーロッパ・アメリカの鰻のデータは研究機関が作った良質のものであるのに対し、日本のデータは漁協へのアンケートに過ぎず、しかもある年から急に対象河川を減らしたり個人の釣り師の成果を対象外としたりと、かなり駄目なものみたいです。これについては、後半の発表者の多くも告発していました。
ウナギの情報と経済 櫻井一宏
 やはりここでも、既存の情報源の低質さが嘆かれました。
産卵場調査から予測するニホンウナギの未来 渡邊俊
 地球温暖化による大雨のせいか、産卵場が徐々に却って南に移ってきているという話が面白かったです。
ウナギ人工種苗生産技術への取り組み―経過と現状 田中秀樹
 飼育条件下では自然に成熟・産卵しない鰻を、今までどの様な苦難を越えて本当の意味での「養殖化」に導いたか、その歴史が延々と語られました。残る問題はコストだけみたいです。
 これは中々に希望の持てる内容でした。
異種ウナギは救世主になれるのか 吉永龍起
 巷の鰻商品のDNA鑑定をしたという話。主にニホンウナギヨーロッパウナギだったらしいのですが、別のものも混じっていたとか。詳しくは本日発売のAERA最新号に書いたそうです。これは是非買って読んでみたいです。
 捕獲の段階でも、温帯種は対象種のみを選別出来るのに対し、熱帯種は混種を免れないとの事。こういう点でも異種ウナギはよろしくないとの事です。
 あと新潟の魚野川という川では、94%がヨーロッパウナギだったという話も出ました。
漁業者の役割―蘇るか浜名湖ウナギ 吉村理利
 生産者の立場からの話。吉村氏は総合討論でも生産者の立場から何度も発言を要求されていました。
 浜名湖には海鵜も一万羽いて、それぞれが一日に1kgも食べるらしいです。鰻も大好きとか。これは大敵ですね。
 あと、学者から見ると非効率な放流もやっているという話も出ました。
養鰻業の役割―今までの資源保護対策とこれからの資源保護対策 白石嘉男
 御免なさい、体調悪くて全くメモ出来ませんでした。
蒲焼業の役割(声明文紹介) 涌井恭行
 丑の日なので店を放り出す訳にはいかなかったらしく、声明文の紹介にて終わりました。
 ここでも私はメモが出来ませんでした。
報道の役割―ウナギ問題をどう伝えるか 井田徹治
 日本の報道機関が業界に遠慮し過ぎているという話でした。抗議を聞くのが面倒で、広告とかの絡みが無くても遠慮してしまう場合も多いとか。
 そして環境問題では科学的な証明が不完全でも念のため予防しておくという「予防原則」が必要だという話が出ました。
 これは私も得心が行きました。実際に煙草等ではやたらと予防原則を振りかざしているのに、ウナギでは予防をしないというのはおかしな話です。
 あと、業界もたまにメディアに批判された時に真摯に反省しないのが良くないという話が出ました。
 これ等は他の問題にも通じる所があります。
環境行政の役割―環境省第4次レッドリストについて 中島慶二
 環境省レッドリストにおいて、絶滅危惧種/評価対象数が一番大きいのは魚類らしく、167/400との事。かつては魚類については水産庁に任せきりだったけど、これからは手を組まなければ駄目だという話でした。
水産行政の役割―ウナギをめぐる最近の状況と対策について 宮原正則
 ニホンウナギが減った理由の一つに河川の工作物があるから、水産庁環境省が組んで国土交通省と交渉すべきという話が出ました。
 あと、台湾との外交は禁止されているので、日・中・台による鰻の保全の会議はAPECの傘の下で漸く実現したものであるという話も出ました。
 中国の河川は広いので、シラスの密漁なんか取り締まれないという話が出ました。ただしその代り、中国は企業を統制し易いので、養鰻業者を縛る事で鰻を守り易いとの事でした。
 一方、民主主義国では相当広範囲に国民のやる気が出ないと、行政サービスは始められないとの事でした。これは午前中の勝川氏の話とも通じます。
 河川の用法については今まで農業が威張り過ぎていたが、これからは徐々に環境・生物の利害を重視する用法にしていかなければならないとの話も出ました。
研究者の役割―東アジア協働へ向けた鰻川計画 篠田章
 海部氏が不足を嘆いていた科学的定量モニタリングをしている方です。
 相模川で資金難の中で始めた研究だけでも、通念とはかなり異なった成果が出たらしいです。今ではモニタリングは全国に広がっているそうです。
 人間の干渉を極力無くした「鰻川計画」については、ここで語られました。
総合討論
 「日本で資源量モニタリングや漁獲枠割当がなされなかった理由は?」という質問に対し、様々な回答がなされましたが、私は納得がいきませんでした。
 例えば「不特定多数の人が簡単に捕れるものは割当が難しく、下手にやるとブラックマーケットを栄えさせるだけだ。」という話が出ましたが、これは鰻についてはそうかもしれませんが、勝川氏が指摘していた鯖等には当て嵌まらない話です。
 私が元気であれば会場からこの点を質問出来たのですが・・・。
 「消費スタイルを変えるべきという提案は、具体的にどのように進めて行くのか?」という質問への回答は、逆にどれも興味深かったです。保全のための費用を鰻関連商品の値段に乗っける生協方式とか、NPOを強化するにはどうすれば良いのかとか、消費者にどう情報を伝えていくかとか、色々聞けました。
 最後に、今回のシンポジウムで悪役とされた、鰻の薄利多売をやっている業者の見解も聞きたいという話が出ました。でも、事前に招待状を十数通送ったものの、反応は無かったそうです。
 公平を期したいので、鰻の薄利多売のために頑張っているスーパーマーケットや商社の主張のページを御存知の方は、教えて下さいませ。
お詫び
 その後は懇親会があったらしいのですが、流石にこの体調では参加は無理でした。
 あと、ほとんど紹介が出来なかった発表の発表者の方は、偶然私のブログを目にされたら御不快になるかもしれません。全ては私の体調管理の不徹底さのせいです。ここにお詫び申し上げます。