書名は忘れたが、宮崎哲弥氏と宮台真司氏の対談本で、「自衛隊が右寄りなのが問題だというのなら、徴兵制を導入すれば良い。そうすれば左翼が自衛隊に入るから右傾化問題は解決だ!」という意味の主張を読んだ事がある。
これは確かに歴史を随分と踏まえた説だと感じたものである。
徴兵制の起源は「国民国家」という発想に基づく。この発想はフランス革命等の形で実現した際には確かに「左翼的」であった。これはもっと遡れば、マキャベリを経由して、ペルシア戦争で専制主義に勝利したギリシアの市民皆兵の制度にまで行き着く。
だが、当時の私は日本の常識に縛られ過ぎてもいたので、二人の天衣無縫な主張を、思想史を学んで現実を見ないインテリならではの机上論だとも感じてしまったのである。
しかし先日『Newsweek(日本版) 2013年 11/12号』の34ページでドイツの事情を読んでいたら、自国の軍が徴兵制から募兵制に移行する事で批判主義的精神を持った軍人が減って軍国主義化が進むという事態を怖れているドイツ人が登場していた。
どうやら欧州ではまだ「募兵制こそ保守的・反動的」という発想が残っていたようだ。流石は国民国家思想の本場である。
だが戦争の形態の変化と兵器の高額化により、徴兵制から募兵制への移行はもう必然であろう。これはもう同情するしかない。
この点、日本は欧州の常識が東亜の非常識であるのを利用して、随分上手に先んじて募兵制に移行出来たものだと思う。戦前以上の「右傾化」と評されかねなかった募兵制に、寧ろ軍国主義的徴兵制と絶対平和主義的軍隊不保持の中間的妥協という印象を付与する事に成功したのであるから。
さて、中国・韓国・北朝鮮が日本の軍国主義化を憂慮する声明を出すと、日本では「こいつらにだけは流石に言われたくない!」という反発が広範囲に起こる。その反応はもう相手への怒りを通り越して嘲弄にまで達している。募兵制より徴兵制の方が軍国主義的だという発想が骨の髄にまで染み込んでいるからであろう。
だがもしも、徐々に徴兵制の評価に関する欧州の常識が東亜にも浸透してきたら、どうなるであろうか?現在の様な余裕を持った反応は日本人は返せなくなるであろう。
そして前掲三国が協同で「日本は軍国主義を止めて徴兵制を導入しろ!」と要求してきた時、既存の右翼・左翼の文化人達がどういった「転向」及び「非転向」を見せてくれるのか、想像すると色々と愉快である。
蛇足だが、「強制的に集めると反発心に基いた上層部監視の力が強くなる」という図式は、徴収対象が「人」でなく「金」である場合も同じである。収入の大半が寄付金や御布施であって会費や義務労働が過小な組織というのは、居心地は良いだろうが、カルト化を警戒した方が良い。
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