サクラ大戦スーパー歌謡ショウ『新宝島』

 私は幼い頃、絵本で『宝島』に出会った。だが当時の私にはその内容はほとんど理解出来なかった。何故いつの間にか主人公が海賊と戦っていたのかも理解出来なかったし、そもそもシルバーが味方なのか敵なのかすら理解出来なかった。
 成人してから普通の翻訳を読み、何故あの絵本があんなにも難解であったのかが理解出来た。
 善人面をして主人公一行の仲間に加わったシルバーが、元来の部下であった海賊達と持ち前の人心掌握術で寝返らせた水夫とを率いて反乱を起こし、その後は自らが組織したその反乱集団を見捨てて自己の赦免の約束と引き換えに主人公の側に寝返るという常識外れの大技をこなすというこの物語を、少年少女向けに解り易く絵本にしろという課題も無茶であるし、どうにか出来上がった絵本を読んで筋書きを理解しろと少年少女に迫るのも無茶である。
 本日紹介するこのサクラ大戦スーパー歌謡ショウの劇中劇『新宝島』は、原作を敢えてほぼ完全に無視する事で、理解し易い全く別の物語を創っていた。これについては大いに賛否両論があろうし、そもそも劇中でもこの劇中劇が始まる前に脚本に物言いがついていた。
 すっかり捻じ曲がってしまった今の私は、正直言ってこういう正統派の冒険譚よりかは、目まぐるしく変転する勢力関係に翻弄される原作の方が好きである。
 しかしながら、夢に溢れてシルバーにも憧れていた頃のジムが、本当に体験したかった冒険物語は、スティーブンソンが書いた後半部分ではなく、こういう話だったのだろうな、とも思った。
 そして童心を持っていた頃の私が『宝島』という題名の本に出会った瞬間に読みたかった物語も、やはりこちらの方であっただろう。
 これはジムや私がかつて出会えなかった「宝島」の物語である。
宝島 (光文社古典新訳文庫)

宝島 (光文社古典新訳文庫)