『絶狼<ZERO>-BLACK BLOOD-』

 『牙狼GARO>』シリーズの外伝『絶狼<ZERO>-BLACK BLOOD-』が発表されたので、感想等を書いておく。
白ノ章
 物語の冒頭で、ホラーが珍しく団体行動をしていた。そして親玉らしきホラーは白服の男であった。
 この時点で『牙狼GARO>』第四話「晩餐」のパズズに似た設定だと思った。そして観続けるに従って、本作は「晩餐」の内容をより膨らませたセルフリメイク的作品であるという確信を抱いていった。
 ホラー「リング」は、ホラーと人間とを共存させ、ホラーと魔戒騎士の戦いを終わらせるという理想を持っている。そのため、自由意志で契約してコミュニティに入ってきた人間達を、数か月に一度、一人だけ籤で選んでホラーの餌にするという制度を考案し、実践している。
 彼と契約する人間は、当然ながら人生が詰んだ者や、自分で詰んだと思い込んでしまった者がほとんどである。少なくとも彼等にとっては、リングは本来よりかは良い人生の提供者である。
 本来なら絶体絶命の人物の命を一旦は救っておいて、しばらくしてから食べるというのは、パズズの設定でもあった。
 またリングは白い羽を持ち、一見すると通俗的な天使の姿にも見える。これも悪魔風でありながら十字架を持っていたパズズに通じる所がある。
 リングは、遊園地に札で結界を張って異世界を作り、そこに人々を住まわせている。これも病院を札で異世界化していたパズズに似ている。
 そして何より、リングは異常に強い。これも近接戦闘の能力だけならば冴島鋼牙を超えていたパズズに似ている。
 リングは、魔戒騎士が100の犠牲を0にしようとするから無理が生じるのであり、だから数百年経っても戦いを終わらせられないのだと主張する。『牙狼<GARO>〜MAKAISENKI〜』には、犠牲を0にするため無理をしてしまった赤い仮面の男や、長過ぎる戦いに倦んで彼に呼応した大物魔戒法師が登場していたので、それを視聴していると、リングの言葉の重みが一層良く伝わってくる仕掛けになっている。
 そしてリングは、自分ならば100を10に出来ると豪語するのである。
 かなり魅力的な敵であるので、とことんこの建前を維持してくれれば、魔戒騎士の戦う意味や正義について深く掘り下げられたと思う。
 実際に現実世界でも、多くの人間の命を奪う自動車が、それ以上の数の人を救うという理由で社会に受け入れられている。この作品では、その事実を思い出せとばかりに、自動車事故を話の中に盛り込んでいる。
 作品世界でのホラーとの関係でも、既に小食なホラーを「善玉ホラー」と称して契約の対象とし、魔戒騎士の命の一部を与える事でそれ以上の数の命を救う活動に従事させている。
 しかし実際のリングの事業において、リングの建前は守られていない。数か月に一度、50分の1の確率で死ぬだけで、その確率は今後低下する一方だ、という建前で人を勧誘しておきながら、その直後にはもうホラーの同志の増加率の高さのせいで同じ月の内に二人目の犠牲者を人間側に要求し始めたりと、随分と酷い事もやっている。この調子では、100を10にするとかいう主張も怪しいものである。
 こうなるとリングの理想に共感した視聴者の多くも、「いつかリングさんの理想を実行出来る天才が出て来るといいね。でもリングさんの経営力では無理だから、今日の所は魔戒騎士側を応援しておくよ。」と考えた事であろう。マルクス主義者の多くが現実の北朝鮮を肯定しないのと同じである。
 よってリングを信用ならないホラーとして描いた事については、賛否両論があると思われる。私個人としても、倫理的な問題をもっと複雑にすべきだったかについては、はっきりとした答えは見いだせない。
 登場人物達の服装は、白と黒とが強烈に意識されている。
 ホラーの親玉のリングは白いスーツを着こなしている。ただしその下のシャツは赤く、御大層な正論の下に血の滴る獣性を隠しているという印象を受ける。
 リングの思想に共鳴してその補佐をしている女性「イユ」は白いドレスを着ている。
 リング以外のホラーは、黒一色の服装である。
 そしてリングのコミュニティに暮らす人間たちは白一色である。どことなくオウム真理教のサマナ服を連想させる。彼等の住居が遊園地なのも、「偽りの楽園」を連想させる。 
 対する魔戒騎士・魔戒法師の側は、主人公の涼邑零も、新登場人物の「カイン」・「ユナ」も、全員がホラーと同じく黒一色である。
 思い起こせば、冴島鋼牙は黒い戦闘服の上に白いコートを羽織っていた。これと今作の配色との間には何か関係があるのかもしれないが、今のところは想像もつかない。この件についてはDVDや関連書籍からの情報を待ちたいと思う。
黒ノ章
 白ノ章では魔戒騎士側に対してせいぜい好意的中立程度の立場であった隻腕のマスター「バクラ」が、黒ノ章では次第に協力的態度を見せ始める。そして彼がかつては魔戒騎士か魔戒法師であった事が示唆される。
 彼は片腕を失ってから、ホラーと命懸けで戦う事が異常だと気付いたらしい。ホラーは人間を食い尽くす程はいないのだから、敢えて戦わなくても良いのかもしれないと考えている。そして敢えてその立場から零の戦いへの意味付けと覚悟とを確認する役割を担っていた。
 なお、ユナの父が二年前にリングに殺された時も、片腕を斬られた上で死んだという事が明らかになる。
 イユがリングに寝返った理由の一つに、戦いの中で視力を失ったショックがあった事も明らかになった。
 その復讐をするかのように、零は最終決戦でリングの眼を斬っていた。
 今の時勢では、障害をテーマにすると、激しい誤解を生みやすい上に、当然抗議にも耐えなければならない。そういう環境下で敢えて上述の描写をした勇気には敬服する。
 最終決戦の直前では、リングは人間の同志達に、零を殺せば一生食われずに済む権利を与えると約束し、人海戦術で襲わせている。たかが一般人でも、人間を斬れない零はかなり苦戦する。そしてリングは、こんな人間を護っても仕方がないではないかと零を説得する。一石二鳥の凄まじい策である。
 アスモディが鋼牙を説得した話とやや似ているが、リングは魔術を使わずに人間の醜さを露呈させていたので、より説得力がある。
 ここにおいて零は敢えて議論しようとはしない。『デビルマン』の不動明ならば心が揺らぎそうな場面であるが、零は長年人間の邪心が生み出すホラーと戦い続けてきたのであるから、人間の醜さなんて指摘されるまでもなく知り尽くしていたのであろう。彼の中では既に結論が出ていて当然であり、ここで長々しい討論を挟まなかったのは正解であると思われる。
 なお、敵を殺せば殺さないでやるという誘惑は、麻原彰晃も所謂「薬剤師リンチ殺人事件」で行っている。こういう点からも、やはりサマナ服風の服装の人間達の共同生活は、オウム真理教に大きなヒントを得ていたものと思われる。
 最終決戦ではリングの同志であるホラーが次々に討たれていくが、確認した限りでは全員が素体ホラーと同じ容姿である。結局、数か月に一度人間を食べるだけというシステムに満足してリングに共鳴していたのは、自力でもせいぜいその程度しか餌を獲得出来ない雑魚ホラーばかりだったのであろう。大食らいのモラックスの様なホラーの対策が出来ていないという点で、やはりリングの計画には綻びがあったものと思われる。
 またリングとの契約に応じた人間も、高額債務者や逃亡犯等の連中ばかりなので、これも大問題であると思われる。こういう連中を利用してホラーに食われる人間の数を現状の10%にする事だけは達成できたとしても、結界に消えた逃亡犯を時効まで延々と警察が税金を費やして捜索したり、貸し倒れによる経済への悪影響があったりで、結局は別の形で90の死者が出る可能性もある。
 なお、原則として人間を斬れない魔戒騎士・魔戒法師であるが、元老院が討伐の対象とした人間は斬っても良いという設定が今作で明らかになった。
 してみると人間という立場を悪用していた『牙狼GARO>〜闇を照らす者〜』の金城滔星は、仮にホラーに憑依されなくても、結局は早晩処分されていた可能性が高い。