「それは、血を吐きながら続ける悲しいマラソンですよ」という発言の傲慢さについて

 『ウルトラセブン』第26話において、人類は超兵器「R一号」を開発する。これさえあれば地球への侵略を企てた星を瞬時に破壊出来るのである。そしてこの存在を全宇宙に知らしめれば、そもそも誰も地球を侵略しようとしなくなると、アンヌ隊員は予測する。
 ウルトラ警備隊の皆が浮かれている中、ダン隊員(正体はウルトラセブン)だけはこの兵器に不快感を示す。敵が対向してもっと強い兵器を開発したらどうなるかについて、半ば八つ当たり気味に何故かR一号の開発者でもない一介の警備隊員であるフルハシ隊員を問い詰める。フルハシが、その場合はもっと強い兵器を開発すれば良いという意味の返事をすると、ダンは「それは、血を吐きながら続ける悲しいマラソンですよ」と有名な発言をするのである。
 この台詞は一般に名言とされる。
 だが私には非常に傲慢な台詞に聞こえる。
 人類や大半の宇宙人よりも優れた力を最初から持っているウルトラセブンが、「俺様が守ってやるだけで十分だから、人類はこれ以上強くなろうと努力するなよ!」と圧力をかけているようにしか、私には感じられない。
 そもそも人類がR一号を開発せざるを得なかったのは、侵略者が多かったからである。侵略者が多いのは、宇宙の警察気取りのウルトラ一族が宇宙の秩序を守りきれていないからである。その事実を棚に上げて、人類に事実上の武装解除を要求するとは、実に傲慢である。
 せめて地球に駐留するウルトラセブンが本当に無敵の存在であったならば、警察が市民に自力救済を禁止するのと同じく、一応の正当性はあったかもしれない。しかし後のガッツ星人との戦いでは、セブンは敵に捕獲されて晒し者にされるという情けない姿を見せた上、人類の助力で辛うじて救われている。普段は「俺様が守ってやるから大人しくしていろ」と言っていた者が、困った時だけ人類に「おいこら、俺様を助けろ」では、到底支持する訳にはいかない。
 多くの人が作中におけるセブンの傲慢さに気付かないのは、「これは米ソの核開発競争を念頭に作られた作品だ」とか、「そもそも『ウルトラセブン』はフィクションであり、セブンのこの発言は実際には人類の一員である脚本家が人類の自己批判として書いた文章を読み上げただけだ」とかの、背後の事情の方にすぐ目が行ってしまうからだろう。
 込められた真のメッセージを分析するのは、確かにフィクションに対する高度な鑑賞法である。そしてそのメッセージに感動するのも自由である。だが、それと作中における登場人物の発言の正当性の強弱とは別の問題であるという事を忘れてはならない。
 「作中の人類≒冷戦時代のアメリカ」という図式以外の図式も考えてみると、ますますセブンの傲慢さが理解出来る。
 まずは「セブン≒アメリカ」としても、やはり史実に似た話がある。アメリカは「俺達が守ってやるから日本人は武装するな」と日本人に命じておきながら、しばらくすると「朝鮮戦争で苦戦しているので、やっぱりちょっと助けてくれ」と言い、最近ではテロとの戦いへの参加まで要求してきている。
 「セブン≒日本」という事例もある。「守ってやる」という態度で、当初は満洲国軍の強大化の邪魔をしていたのに、ノモンハン第二次世界大戦で苦戦する度に、「やっぱり諸君ももう少し頑張ってくれ」と要求してしまったのである。
 私がもしフルハシで、しかもダンの正体を知っていたならば、『七人の侍』の菊千代と同様の怒りをぶつけるであろう。
 「やいウルトラセブン、お前は人類を何だと思っていたんだ?誰もが薩摩次郎だとでも思っていたか?笑わせちゃいけないや。人類ぐらい悪ずれした生き物はないんだぜ。地球の怪獣への対抗手段も無い、宇宙怪獣への対抗手段も無い、何もかも無いときたもんだ。ところが在るんだ、何だって在るんだ。科学特捜隊から引き継いだ武器の保管庫に潜入してみろ。出てくる出てくる、先代ウルトラマンスペシウム光線と同等の威力のマルス133だの、ウルトラマンに圧勝した宇宙恐竜をも瞬殺する無重力弾だの。ノンマルトが先住民としての権利を主張すれば皆殺しだ。よく聞きな、人類、特にキリヤマ隊長とかはな、けちん坊で、狡くて、泣き虫で、意地悪で、間抜けで、宇宙人殺しだ!だがな、そんな獣を作ったのは誰だ?」

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