「怪獣使いと少年」を少し捻くれた視点から視聴

 『帰ってきたウルトラマン』の、差別問題を扱った回として名高い「怪獣使いと少年」は、しばしば悪い差別者と善良な被差別者の二項対立的な分かり易い説明によって紹介されるが、しっかりと時間をかけて視聴をすると、更に味わい深い回である。
 以下、多くの媒体で余り語られない観点を、登場人物ごとに指摘してみる。
1.佐久間良
 汚染された地球環境によって傷ついたメイツ星人を救うため、そして自分も地球を脱出するため、メイツ星人の宇宙船を発掘しようと、河川敷を黙々と掘る「少年」佐久間良。
 佐久間はしばしば純然たる被害者として紹介されるが、私にはそうは思えない。
 メイツ星人にはまだ超能力が残っており、彼が本当に母星に帰りたいと思っているならば、地面を掘る作業を少しは手伝う筈である。そして実際の発言を聞いても、宇宙船を掘り出して欲しいとは思っていないようである。佐久間の発掘作業は、佐久間の側で安らかに衰弱死したいと思っているメイツ星人にとっては、言わば有難迷惑なのである。
 それでも地面を掘る佐久間なのだから、自分にも言い聞かせている建前はメイツ星人救済であっても、目的の大半は自分の地球脱出であろう。これはラストシーンでメイツ星人の死後も黙々と地面を掘っていた事から明らかだ。
 佐久間が町の人に、「我々の町をムルチから救ってくれた善良な宇宙人がいるんだけど、彼のために一肌脱いでくれないか? それが無理でも、僕の宇宙船発掘作業の邪魔だけはしないでくれないか?」と先に正直に言っていれば、奇人扱いされずに済んでいたかもしれない。だが「地球人は遠からず自らの作った公害で滅び、自分だけはメイツ星に逃げる」という思想で他の地球人を見下して、メイツ星との縁を独占しようとしている佐久間には、これが出来なかった。
 では「特権意識で万民を見下していた佐久間は差別されて当然」かというと、それはそれでまた単純な感想になってしまう設定も丹念に描かれている。父に蒸発され、母に先立たれ、生後約七年で天涯孤独となったのである。
 幾多の宇宙人に侵略をされた経験を持つ作品世界の地球人が、「超能力者を見たら宇宙人と思え。宇宙人を見たら侵略者と思え。」と考えるのが普通であるのと同様、佐久間が「地球人を見たら取り敢えず悪辣な迫害者であると思え。」と自分に言い聞かせていたとしても、誰がそれを批難出来ようか。
2.メイツ星人
 彼は地球の調査に来たが、佐久間への愛情から任務を放り出してしまった。
 母星に帰る気も無いし、帰った所で処罰を受けるだけである。だから地球でひっそりと衰弱死しようとしている。おそらく佐久間を母星に連れ帰る気も権限も無い。
 それでいて佐久間には「町の人に(あまり)嫌われない方法」等を指南しようとはせず、佐久間にとって脅威となる犬を見せしめの様に超能力で爆死させ、町の連中の怒りを更に買う。
 自分が地球人に敵意の無いメイツ星人である事、ムルチを封印した事、自分が(非業の)死を遂げるとムルチが復活するので、今の内に対策を練っておくべき事等を、積極的に町の連中に伝えていたら、自分と佐久間への待遇は余程変わっていただろう。
 以上、彼の失敗をあげつらったが、そもそも地球の文化をほとんど知らないのであるから、本人を責めるのは酷というものである。
3.郷秀樹
 ムルチとメイツ星人の関係を知らない、僅か約二十人の暴徒が佐久間とメイツ星人を襲い、その内のたった一人の警官が発砲をし、メイツ星人は死ぬ。そしてその直後の暴徒の大半は「流石にやり過ぎだ」という雰囲気を出しつつ後退りをしていた。死んでいくメイツ星人には、暴徒への恨みの台詞の様なものはなかった。
 そうであるのに、郷は暴徒の怪獣を倒せという要求に「勝手な事を言うな」と無茶な事を内心で言う。もしも発砲した警官が、メイツ星人を殺せばムルチが復活するという事を知っていた上で殺し、その警官本人が「さあ、ムルチを殺すのは君の役目だ」と要求してきたのなら、それは確かに身勝手な発言だが・・・。
 しかも郷は勝手にメイツ星人の内心を忖度し、暴れるムルチを「まるで金山さん(メイツ星人の仮名)の怒りが乗り移ったかの様だ」と評する。そのムルチってメイツ星人にとっても敵だったのだが。
 ムルチの立場も考えてみよう。自分が誰かに一年間ぐらい封印されて、その封印者が死んだ御蔭でようやく解放された挙句、「貴方こそ封印者の気持ちの代弁者ですね」と決めつけられたら、どんな気分になるだろうか?
 町の連中は全員で佐久間を差別していたわけではなく、彼に同情してちゃんとパンを売る女性等もいた。郷が躊躇している時間にも、町の被害は拡大し、そういう人もどんどん巻き添えになったり、経済的基盤を失ったりしていった事であろう。
4.暴徒
 メイツ星人を殺した警官は、この話の一番の悪役である。
 だが『ウルトラマンA』の「明日のエースは君だ!」を視聴して、北斗星司の苦悩を知れば、そう簡単に絶対悪と決めてかかる訳にもいかなくなる。
 彼だけは知っていたのかもしれない。「メイツ星人が一秒でも長く生きれば、それだけムルチが強大化してしまう」等の裏設定を。
 それは極端な例だが、正体不明の超能力者は、敵かもしれないし味方かもしれない。弱い地球人が警戒をするのは当然であり、彼らを現実社会で弱者をいたぶっている差別者と安易に同視する事は、却って現実社会における別の差別を正当化してしまう。「あいつらはいつも徒党を組んで要求をゴリ押しするんだ。まるで「怪獣使いと少年」に出てきた暴徒の様にな。だから許せん」と。