『ウルトラマン』の第23話と第39話との間の年代の調整に挑戦！――そしてそこから見えてきた、強過ぎる防衛力の副作用

　古典的傑作『ウルトラマン』の第23話「故郷は地球」には、珍しく年代が記された墓碑が登場する。
　この話は、かつて宇宙飛行士だった「ジャミラ」が水の無い星に漂着した末に怪獣化し、何十年もかけて宇宙船を改造して地球に戻ってくるが、公的にはジャミラと無関係の宇宙怪獣として処理されてしまう、というものである。
　そしてジャミラのためには、表向きには人類の夢と科学の進歩に貢献して死んだ宇宙飛行士としての墓が建てられる。その墓碑銘には「1960‐1993」とはっきり書かれている。
　この1993年については、宇宙飛行士ジャミラが事故に遭った年という説と、宇宙怪獣となったジャミラが実際に死んだ年であるという説とがある。
　だが後者は論外だ。公的には宇宙飛行士ジャミラと宇宙怪獣ジャミラが同一人物である事は最後まで認められなかったのである。また「何十年」というからには事故は二十年以上前に起きた筈である。最大限に年齢を高めに見積もっても十三歳前後の子供に、自力で宇宙船を修理し、更にはそれを透明化させる改良まで施す事は、到底不可能であろう。
　よって第23話だけを見ると、ウルトラマンの舞台は1993年の数十年後という事になる。ただし「数十年」と言っても、ジャミラの知り合いで現役の科学特捜隊員であるアランがジャミラに同輩の様に語りかける場面があるので、せいぜい三十年程度の未来であると思われる。
　一応この説にも弱点はある。ジャミラが事故に遭ったのが、米ソの宇宙開発競争時代であるという点である。これに対しては、「劇中の平行世界ではソ連はまだ健在だったのだろう。」と答える事が可能である。あるいはまた、1980年代のスターウォーズ構想もまた一種の宇宙開発競争であるとも言えなくもない。「1980年代末にジャミラ出発→1991年ソ連崩壊→1993年に事故」という可能性もある。
　さて、第23話からこの「ウルトラマンの舞台は2020年頃説」を採用しても「1993年説」を採用しても、どちらにせよ矛盾すると一般に思われているのが、第39話「さらばウルトラマン」の岩本博士の発言である。ネットに掲載された多くの文章が、「ゼットン星人の円盤が1930年代から40年間地球を偵察してきた」という設定が岩本博士の口から語られたとしている。
　日本版wikipediaの「ウルトラマン」の項目の「時代設定」（http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%B3#.E6.99.82.E4.BB.A3.E8.A8.AD.E5.AE.9A）でも、「第23話でジャミラの墓標に没年が1993年と記されていたり[8]、最終回で“1930年代から40年以上”との台詞があるなど一定していない。」とされている。（最終閲覧日時は西暦2012年10月29日22時16分）
　本当に岩本博士がそんな事を言っていたのかを知るため、私は実際に第39話の冒頭を視聴してみた。
　すると驚いた事に、「1930年から円盤が地球を偵察していた」という設定と「40年間地球侵略のチャンスを狙っていた」という設定は、それぞれ別個に語られていたのである。
　考えてみれば当たり前の話である。偵察を開始した瞬間から侵略の機会を窺うというのは、ほとんど有り得ない。まずは気候や埋蔵資源や病原菌等を調べて侵略に値する星であるか否かを見定め、値すると決まったら次に人類の戦力や地上戦のための地形等を調べ、状況次第では勝てると判断してから漸く機会の到来を待つというのが、常識的な侵略のセオリーである。それにそもそも1930年から侵略の機会を狙っていたのであれば、人類が第二次世界大戦で疲弊していた時期を狙うであろう。
　以上の主張を年表化すると、こうなる。
1930年　ゼットン星人の地球調査が始まる。
1980年頃　ゼットン星人が地球侵略を決意。絶好の機会を窺い始める。
1993年　ジャミラが事故に遭う。
2020年頃　ウルトラマンが地球に来て、ジャミラを含む諸怪獣を大量に倒す。
その直後　ゼットン星人が絶好の機会が到来したと判断し、地球侵攻を開始。
　ここで読者は疑問に思われるかもしれない。「何故ウルトラマンという有力な敵が地球に居た年が、ゼットン星人にとって侵略の絶好の機会だったのか？」と。
　私はこれにこう答える。「ウルトラマンが地球の有力な怪獣を大量に各個撃破してしまったからだ。」
　怪獣の他にも、場合によっては対ゼットン星人という一点で人類と共闘したかもしれない地底人やケロニアやバルタン星難民に壊滅的打撃を与えてしまったりしている。
　こう見ていくと、ウルトラマンの活動は、人類の目先の利益の達成であると同時に、ゼットン星人の地球侵略の露払いにもなっていた事になる。
「輔車相依　唇亡歯寒」（『春秋左氏伝』僖公五年より）