『半狂乱』鑑賞記

 類類の第四作『半狂乱』を観てきました。脚本は前に紹介した『ワルイオンナ』(http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20120921/1348236383)と同じ北川亜矢子さん。テーマも『ワルイオンナ』とかなりかぶっていました。
 高校時代に友人だった三十代半ばの女性四人が再会するのですが、それぞれ全く違った生き方をしていました。そして皆が自分なりの不幸を抱えつつ、互いの幸福そうな部分を妬み、また時には強がって幸福なふりをします。これが非常に身につまされる思いがする内容であり、きつい表現で観客の心もえぐっていました。
 演劇としてわかりやすくするため、四人の生き様は完全に別々でしたが、現実世界では専業主婦同士でもキャリアウーマン同士でも、細かな格付けの泥仕合からは逃れられません。男性だってやはり、互いに不安を抱えながら、互いに馬鹿にし合っています。
 本来幸福とは自己で完結する感情であるのに、「客観的に幸福とされる立場である事」に幸福感を見出してしまう事で、果てしない不幸な戦いが始まってしまうのです。
 私は幼い頃に偶然にも水木しげるの「幸福の甘き香り」という作品に出会えたので、幸福感についてはかなり達観する事が出来る大人になれました。「どう生きてもそれぞれがそれぞれなりに不幸だ」という真理を、この漫画でねずみ男が教えてくれたのです。他人を妬みそうになった時は、この作品を思い出しております。そんな私でも時にはちょっぴり人生が辛いのだから、こういう作品に出会えなかったために他者を貶める事で何か幸福になれると思い込んでいる人達は、一体どれだけ辛いことやら・・・。
 そしてこの「幸福の誇示」の戦いの道具としてSNSが使われているという設定も、鋭く現代日本社会を暴く脚本家の能力の高さが現れていると感じました。
 この作品の観賞を通じて、他者との幸福の比較に幸福を見出す不毛な戦いから抜けだせた人が一人でも多くいればいいなぁ、と思いました。
 でも一方でこうも思います。「あの時、水木作品に触れなかったならば、私は隠者的人物にならずに、楽しく幸せに他者との不毛な戦いを満喫していたかもしれないなぁ」と。そしてこのように考えてしまったという事から、私は「有り得たかもしれぬ自己」という準他者との比較だけは今でも続けているという事になります。
 良かったのは脚本だけではありません。俳優さん達の演技も上手で、舞台の中にどんどん引きこまれてしまいました。
 この作品では、三十代半ばの女性の悩みを際立たせるため、十代〜二十代の頃の回想の場面が要所要所で描かれるのですが、瞬時に感情を使い分けていたのが特に見事だと感じました。
 最後の挨拶で、類類のメンバーもゲストであるニッチェのメンバーも、色々と謙遜をしていましたが、私の側では大満足でした。

ねずみ男の冒険 (ちくま文庫―妖怪ワンダーランド)

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