高麗文康『陽光の剣 高麗王若光物語』(幹書房・2013)

陽光の剣  高麗王若光物語

陽光の剣 高麗王若光物語

 高麗郡建郡1300年を記念して、高麗神社の現宮司による小説『陽光の剣 高麗王若光物語』(幹書房・2013)を紹介する。
 これは初代高麗郡司である若光を主役にした物語である。主人公の若光は、前半では王家の分家の一員として高句麗の存続のため苦心をする。しかし中盤で祖国は滅亡してしまい、彼は高麗郡司として再出発をするのである。
 最初は「アマチュアが書いたもの」というのを前提に読み始めたのだが、すぐに物語に引き込まれ、自然に普段本業の小説家が書いたものを読む時と同じ態度にさせられた。そしてその基準で評価しても、かなりの名作であると感じた。
 一つ残念だったのは、振り仮名である。若光の部下には一文字の名前を持つ女性が複数いるのだが、その中で「恵」だけが訓読みの降り仮名になっていたのである。
 最初にこの不自然な部分を見つけた時は、「ははん、部下ではこの娘だけが最後まで生き延びて日本に帰化するのだな」と予測したのだが、別にそういう伏線ではなかった。
 よってこの「恵」は、地方の出版社ならではの痛恨の校閲ミスと考えるのが自然である。
 ただし、辛口な私が「最大の欠点は出版社の選択」と評価したという事は、事実上の絶賛とも言える。