安易な「右傾化」の風潮に物申す!

 最近の日本への分析として「右傾化」という単語を使用する人が増えている様に思える。自称右から自称左まで、この分析だけは意見が一致しているようだ。
 だが私は、日本が本当に右傾化しているのか、かなり疑問に思っている。
 以下、最近の日本の変化や状態を幾つか検討してみたい。何をもって右とするかは人によって違うだろうから、なるべく多く揃えてみた。
 まず天皇に対する崇敬を右、その逆を左としてみよう。確かに、何が何でも天皇制を廃止したがっている人達は減ってきている。そこだけを見れば右傾化だろう。しかし、何が何でも天皇を守りたがったり主権を返却したがっている人達も、かなり減ってきているのではあるまいか。
 次に自衛隊の正統化・強化を右としてみよう。確かに、自衛隊廃止論の勢いは弱まった。しかし、まさにそれがバネとなってか、読売新聞等のアンケートの結果を見るに、敢えて憲法第九条を改正する必要はないという意見も急激に増えているようである。
 小さな政府を目指すのを右としてみようか?確かに、郵政は民営化された。しかし、国民年金関連の不祥事続きの中でも、国民の多くは年金の強制加入が平気の様である。
 社会契約による共同体を目指すのが左翼、擬似血縁によるそれを目指すのが右翼としてみよう。確かに、愛国心より祖国愛を、祖国愛より郷土愛を、と唱道する『国家の品格』(http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20080405/1207330218)なる書籍がかなりの売れ行きを示し、地方への分権も進んでいる。しかし、平成の大合併により地方自治の最小単位の平均的な面積は増加し、道州制の導入の議論も活発である。
 55年体制における政党を基準に考えてみたとする。確かに、社会党は壊滅した。しかし、自民党議席を大幅に減らして、公明党と連立政権を組まざるを得ない状況に追い込まれている。
 対外関係も考えてみよう。『嫌韓流』(晋遊舎・2005)が売れたから右傾化だと言い張る者もいる。しかし、国内的にも圧政を敷いている共産主義国による日本人拉致事件が解決していないのに、その分断相手の資本主義国の欠点を呑気に過大視する事が、果たして右傾化なのか?
 私は、「だから右傾化という判断は全て間違いだ。」とは言わない。上記の様な事はとっくに判った上で、それでもやはり右傾化だと分析している人も多いはずだ。
 ただ、見方をちょっと変えるとこれだけ「左傾化」の証拠も出てくるのに、思想的な対立を乗り越えて「右傾化している。」の大合唱が行われているのは、少々異常ではないかと思うのである。右傾化だの左傾化だのより、この現象の方が私には怖い。

国家の品格 (新潮新書)

国家の品格 (新潮新書)

マンガ嫌韓流

マンガ嫌韓流