ヒトさんとブタ君とイヌ君

 ある家で、ヒトさんとブタ君とイヌ君の三匹の動物がとくひつすべき対立も無く暮らしていました。
 ところがある日、ヒトさんは屋外でイノシシ君に色々と酷い目に遭わされました。ヒトさんはイノシシ君に直接復讐するだけの度胸が無かったので、イノシシ君の親戚のブタ君を殺す事で復讐心を満たそうと決意しました。
 しかしブタ君には強い自殺願望があったので、そのまま殺しても大した達成感は得られそうにありません。そこでヒトさんは、ブタ君に現世の快楽を厭という程与えてやる事にしました。そうしていつかブタ君が将来に展望を持った瞬間に殺そうと企んだのです。
 その長期的計画は、ヒトさんにただいな困難をもたらしました。屈辱を感じる事もありました。しかしヒトさんはやがて来る復讐の日のため、必死で耐えたのです。
 そして復讐の日が来ました。ブタ君がついに未来を語ったのです。その瞬間、ヒトさんは鋭利な刃物でブタ君の腹を刺しました。
「嗚呼、何故私を殺すんだ?せめて動機を教えろ。」
「その依頼に応じる事で、私はより一層目的を達成できるのだ。実は・・・。」
「ふふふ、やはりイノシシが事か。私はあの事件を知っている。そして今日この日まで生き延びたのは、唯一の生き甲斐として、私を騙しているつもりでいる貴様を腹の中で馬鹿にし続けるという快楽があったからだ。十分前にそれにも飽きたので、貴様の手を利用して自殺したのだ。貴様の献身的な奉仕の御蔭で随分預金も貯まった。この遺産は全てイノシシのものとなる事が既に決定している。さらばだ!」
 それを聞いていたヒトさんは、倒れそうになりました。
「君は騙されていたんだよ。」
 イヌ君が優しくヒトさんを抱きとめ様としました。
 その時に生じた一瞬の隙に乗じて、ヒトさんは腹癒せにイヌ君を殺そうとしました。
 しかしそれは意図的な誘いでした。イヌ君はヒトさんの動きを巧みに利用し、隠していた刃物でヒトさんを袈裟斬りにしました。
 ヒトさんは必死の思いで即座にイヌ君が今後不快になる様な遺言を考えました。ブタさんの遺言が良い参考になったので、かなり早くそれを思いつきました。
 ところがそれを言おうとしたまさにその瞬間、喉笛を噛み砕かれました。喉は「ヒュー、ヒュー。」と虚しい音を出すだけです。
「より強い屈辱を与えるため、思いつくまで待ってやったのさ。」
 イヌ君は勝ち誇ってそう言いました。そう言った事で、益々誇らしくなりました。
 でも、ヒトさんが最後の力を振り絞って右手の人差し指を動かして自らの血で床にメッセージを書き終えていた事に気付いた途端、敗北感に打ちのめされました。
 メッセージの内容は、以下の通りです。
「私が何と言おうとしていたか、今後ずっと気になるだろう?」