『まぼろし探偵』全話視聴計画(第9・10話)

第9話 進君危うし!
 坂崎光学研究所から特殊レンズの資料が盗まれる。犯人の一人はこの研究に深く関わっていた花田という男であり、彼自身はすぐに捕まる。しかし資料は既に協力者の熊谷の手に渡っており、しかも熊谷はブラックマンと名乗り、富士警部に対し、花田を釈放しなければ息子である富士進の身に害を及ぼすと電話で通告してきたのであった。
 そんな予告があれば、脅しに屈しないにしても一応は普段よりかは用心深く行動するのが常識人の態度であろう。しかし吉野さくらの声を真似た犯人グループの女性からの電話が日の丸新聞社にかかってくると、進はこれに騙されて出掛け、簡単に誘拐されてしまう。
 今回の敵は今までで最強かもしれない。大急ぎで事件の担当の警部の身元を割り出し、その息子の職場や交友関係を調べ上げ、友人の声も直ぐに模倣したのである。そして関東一円で最強に近い洞察力の持ち主をこうもあっさり捕らえたのである。一時的に進を騙すのに成功しただけのスペード団とは格が違う。『三国演義』に例えるなら、この人を部下に出来れば天下を安んずるのが可能とかいう推薦を背景に神秘性を伴って登場したばかりの諸葛亮を、いとも簡単に計略によって監禁してその権威を即座に失墜させた劉蒅の様なものである。
 その後、本物のさくらが新聞社を訪ねて来たので進が誘拐されたと気付いた山火編集長は、黒星の運転するオートバイに乗って直接富士警部に詫びに行く。こういう場合、まずは電話で情報を即座に伝えるべきである。
 進が連行されたのはホワイト館であった。進は自力で縄を解き、脱出。
 ここで直ぐにまぼろし探偵の装備を整えて報復に出るかと思いきや、まずは母親の富士松子にまぼろし探偵として電話する。母親も父親同様、まぼろし探偵の声が息子の声だと気付かない。「進君は無事です。夕方までには屹度家へ帰れますよ。」と伝え、更に松子を通じて富士警部にホワイト館の場所を報告している。そしてこの情報によって警官隊が来るまでに事件を片付けようとはせず、内外から呼応して事件を解決する道を選んでいる。してみると今回は流石に進も独力では確実に勝利する自信が無かった様である。最強の敵であると認識していたに違いない。
 ホワイト館は警官隊に包囲される。進が既に自由に行動している事を知らない熊谷は、人質の一件を持ち出して警官隊を牽制しようとするが、警官隊は「進君はまぼろし探偵が助け出した。進君はそこにはいない。」と言い張り、そのまま前進して銃撃戦を開始する。「進君は無事です。」という情報も随分拡大解釈されたものである。
 この銃撃戦では警官と熊谷の部下とがそれぞれ少なくとも一名撃たれている。生死は不明だが、自己の実力を過信しなかったまぼろし探偵の囮戦術がもたらした尊い犠牲である。
 事件解決後、香山刑事は大塚刑事に「富士警部に電話をして、進君はまぼろし探偵が救ったと伝えてくれ。」と命じている。してみると先程の「進君はそこにはいない。」という発言は確信をもって行われたものではなく、熊谷への脅しと部下への鼓舞を兼ねたブラフだった様だ。危険な刑事である。
 ここで、今まで上下関係が不明であった香山刑事と大塚刑事の序列も判明している。また香山はまぼろし探偵に「警部」と呼ばれている。
 なお熊谷達の予定では、特殊レンズの資料はその日の午後八時にホワイト館を訪れるはずだったブラック博士に渡される事になっていた。この博士については謎のまま終わった。

完訳 三国志〈3〉 (岩波文庫)

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第10話 山火編集長襲わる
 タイムリミット系の話が連続したり、犯罪組織が普通の会社に偽装する話が連続したり、王女が狙われる話から僅かしか経過していないのにまた王子が狙われたり、偽記者が登場する話が頻繁にあったりと、没原稿の即座の再利用が疑われるこの作品だが、第9・10話の共通項は「誘拐」である。
 ただし第9話が現段階における最強の敵との初の死者(重傷者?)まで出した熾烈な戦いであったのに対し、第10話は一転して最弱の敵とのほのぼのとした戦いである。大事件を描いた直後という予算の都合もあったのか、登場人物も少なければ火薬も使われない。
 まず山火編集長が誘拐される。編集長の不在に気付いた記者達と給仕は、仕事を放り出して山火を探し回る。やがて犯人から、一千万円を要求する電話がかかってくる。
 その頃黒星十郎は、左利きの男に殴打されていた。この男はオープニングのテロップでは「レフトの徳」と紹介されている。
 この二つの事件は、どちらも一年前の日の丸新聞の報道を恨んだ「森屋組」によるものであった。つまりこの森屋組は、かつては完全な合法組織であったか、あるいはせいぜい一年で出獄出来る程度の犯罪しか行ってこなかった組織なのである。よってその行動は、間抜けな犯罪組織が多いこの作品の中でも群を抜いて素人臭い。犯罪者でありながらまぼろし探偵については名前すら知らず、また動機も組織名も本拠地も本人達は隠しているつもりでいながら直ぐに発覚してしまう。
 身代金の受け渡し場所を進の方で指定すると、組長と部下二人はのこのこ出向いてしまう。そこに出現したまぼろし探偵に立ち向かう際、レフトの徳は大きなボクシンググローブを嵌める。そもそもボクシンググローブは武器ではなく衝撃を弱めるものであり、そして大きければ大きい程その効果は高まる。つまりレフトの徳は、まぼろし探偵を黒星以下の存在と思い込み、自分の拳を可愛がったのである。当然三人とも叩きのめされる。
 まぼろし探偵から森屋組の住所を聞いた黒星は単身乗り込み、残っていた見張り一名と格闘し、引き分ける。見張りは腹にナイフを隠しており、僅かな隙さえあればそれを抜ける有利な立場にあった。しかも黒星は大急ぎで駆けつけて来て体力が落ちていたであろうから、この見張りは実に弱いと言わざるを得ない。