『仏陀再誕』

仏陀再誕 [DVD]

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 「平凡な雰囲気の真面目な女子高生ドラマ風に始まる。」と超映画批評には書かれていたが(参照→http://movie.maeda-y.com/movie/01367.htm)、この映画の主人公の「天河小夜子」は実際には全然真面目ではない。寧ろやや不良に近い。
 何しろ物語は、小夜子が授業中に居眠りをしている最中に見た夢から始まるのだ。しかも授業を聞いている内につい眠ってしまったのではなく、歌手か何かの写真をこっそり見ている内に寝ていたらしいのである。
 私が敬愛するある宗教家なら、「授業中に昼寝をする奴は、朽ちた木だ!糞で造った垣根だ!」と激怒するであろう。だが私の個人的な価値観で異教を裁くのもよろしくないと思い直し、怒りを抑えて続きを視聴した。
 翌日のシーンでは、小夜子は「保健室に行ってきます!」と叫んだ直後、教師が許可を与える前にもう教室の外に向かって歩き始めていた。私はここで「地獄に堕ちろ!」と声に出してしまった。
 その後、駅で電車に轢かれそうになるのだが、昔の恋人「海原勇気」に助けられる。よって海原は小夜子の命の恩人という事になるのだが、小夜子の態度はかなり悪い。過去に何があったか知らないが、もう少し感謝しろよと思った。
 小夜子は家でテレビを見ている最中に地震が起きると、テキパキと指揮を執る。母には「火の元確認。」、弟には「出口の確保。」、そして自分はテレビを見続ける。何様の積もりだ!
 小夜子は、テレビで興味を持った宗教団体「操念会」の指導者「荒井東作」に対し、学校新聞の記者として取材に行く。受付での態度を見るに、アポイントメントは取っていないようである。
 銀河万丈氏演じる荒井が、この世は弱肉強食だから教団に入って強くなれという意味の演説をし、小夜子がそれを聴いていると、警備員の制止を無視して乱入してきた海原が小夜子を強引に連れ去る。これはもう犯罪なのだが、海原は「TSIのメンバーが外で待っている。」と警備員達を脅し、まんまと逃げ遂せる。なお「TSI」というのは、子安武人氏演じる「空野太陽」が率いる宗教団体。
 その後も、小夜子は医者の娘だというのに病院のロビーで大声を出したり、海原は自動車の運転に集中せずに周囲の車に迷惑を掛けたりする。私の価値観に基く限りでは、彼等は本当にろくでもない連中である。
 彼等への私の怒りを鎮めてくれたのは、丁寧に描き込まれた絵の素晴らしさである。前作『永遠の法』では弱点であった人物の表情も(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20091107/1257605941)、かなり質が向上していた。
 また前作と違って銀河万丈氏にも子安武人氏にも長時間の演説や戦闘等の見せ場が多かったのも、個人的には嬉しかった。
 荒井率いる操念会は、超能力が売りで、宇宙人や天変地異の脅威を説く事で勢力の拡大を目指していた。おそらく「そうねんかいのあらいとうさく」は「そうかがっかいのいけだだいさく」を連想させる目的が込められていたのだろうが、やっている事をこのように列挙してみると、どちらかというと大川隆法氏の方に近いとも言える。
 事前に何の情報もないまま、「これは、霊言がどうだの、レプタリアンがどうだの、ノストラダムスがどうだのと言っている教団を揶揄するため、SGI(劇中名「TSI」)が製作したアニメなんですよ。」と言われれば、それをそのまま信じる人も多いだろう。
 そのようにも解釈出来る諸設定が、製作側が意図的に用意したものだとすれば、これは実に尊敬に値する、素晴らしい英断だと思う。
「宰予晝寢 子曰 朽木不可雕也 糞土之牆不可杇也 於予與何誅 子曰 始吾於人也 聽其言而信其行 今吾於人也 聽其言而觀其行 於予與改是」(『論語』公冶長篇より)
論語 (岩波文庫 青202-1)

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