江戸時代の『スーパーロボット大戦』

 唐沢俊一検証blogの昨日の記事(http://d.hatena.ne.jp/kensyouhan/20110304/1299207330)で少々気になった箇所を見つけたので、本日はそれに関する記事を書こうと思う。
 kensyouhan氏によると、唐沢俊一氏は鶴岡法斎氏との共著である『ブンカザツロン』(エンターブレイン・2001)という書籍の中で、山田風太郎の『おぼろ忍法帖』を評して、「この作の面白さは、そういう、チャンバラマンガファンにおなじみの剣豪たちをもし、一堂に介(ママ)せしめて戦わせたら、という、戦前の立川文庫にあった寛永御前試合ものの現代の換骨奪胎のアイデアにあり、伝奇ロマン云々という昨今の評価は、むしろ後から付け加えられたものなのだ。昨今の『スーパーロボット大戦』など、みな、アイデアの根本はこの『おぼろ忍法帳(ママ)』からきている、と思うのである。」と語ったらしい。
 史実や過去の作品において別々に活躍していた連中が一堂に会するという発想の根本は、果たしておぼろ忍法帖立川文庫までしか遡れないのであろうか?いや、決してそんな事はない。実は私は、この種の発想に基く江戸期の作品を幾つか知っている。
 まず真っ先に挙げたいのは、芝全交の『大違宝船』である。数多くの歴史上の人物や創作上の人物が、様々な理由から竜宮城に挑むという話である。これは木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集』(岩波書店・1997)で読める。
 では早速人物紹介をしよう。なお紹介文の作成に際しては、前掲書の宇田敏彦氏による注釈を参考にした。
藤原不比等・・・長歌修行のため、江戸にやってきた。洲崎の弁財天から宝玉を貰うが、竜王の手下にそれを奪われたので、取り返そうとする。
藤原秀郷・・・三味線弾きとなり、不比等とコンビを組む。玉手箱によって老化したので、竜宮の人魚の肉を食べて若返ろうとする。
※浦島太郎・・・若き日の藤原秀郷と乙姫の出会いの場を提供する事で儲けていた。だから秀郷に協力する。個人的にも「よい玉手箱」を欲していた節がある。
八百屋お七・・・浦島が乙姫をまじないで召喚しようとした時、誤って彼女と山椒大夫が召喚されてしまう。山椒大夫の攻撃で眼病を患い、それを治すために竜宮のアカエイの肝を欲する。
※手白の猿・・・お七の依頼を受ける。元ネタは、当時有名だった架空の人物「愛護の若」が寵愛した猿らしい。
比丘尼・・・不比等の愛人。不比等に協力する。彼女が不比等に協力する伝説こそ、この話の原型らしい。
 『おぼろ忍法帖』のように妖術のようなものを使って歴史上の人物を復活させて利用する話としては、佚斎樗山の『英雄軍談』を挙げたい。これは飯倉洋一校訂『佚斎樗山集』(国書刊行会・1988)で読める。
 閻魔王阿修羅王に奇襲された帝釈の亡命を受け入れるが、阿修羅王の攻撃に苦戦する。そこで軍師として招かれたのが、楠正成・毛利元就山本勘助。たった三人なのは、「小田原評定」を避けるため。では何故最強である楠一人だけにしなかったかというと、「鉄砲渡りて後の」戦術も知るため。
 戦い自体はあっさり終わってしまうのだが、その後に三人が語る宗教論等がかなり面白い。
 そして最後にもう一つ、恵美押勝大伴家持塩焼王橘奈良麻呂橘諸兄藤原豊成道祖王不破内親王和気清麻呂といった連中が一大連合軍を結成して朝廷に抵抗するという、建部綾足の『本朝水滸伝』も紹介しておきたい。これは、高田衛・田中善信・木越治校注『本朝水滸伝 紀行 三野日記 折々草』(岩波書店・1992)で読める。

ブンカザツロン (ファミ通Books)

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魔界転生〈上〉 (角川文庫)

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スーパーロボット大戦

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草双紙集 (新日本古典文学大系 83)

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本朝水滸伝;紀行;三野日記;折々草 (新 日本古典文学大系)

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