この国に摂政は要らない

 「「大臣」という役職の名称は民主政治にそぐわない。」という主張を、何度か見た記憶がある。
 その主張の根拠は、「かつて「大臣」は天皇の部下を意味していたから。」というものであった。
 私は、この主張に触れる前から大名家に「家臣」がいた事を既に知っていたので、賛同する気に全くならなかった。主権者だった頃の天皇は大臣を持って良かったのに、主権者になった国民は部下として大臣を持ってはならないだなんて、そうした主張の方が余程「反動的」であると思ったものである。
 国民主権の理念に基いて改正すべき役職名は、「摂政」の方である。
 日本国憲法第5条には、摂政について「前条第一項の規定を準用する。」とある。そして第4条1項には「天皇は、この憲法に定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。」とある。天皇と同じく国政に関する権能を有しない筈の役職の名前が「政ヲ摂ル」の白文というのは、非常に奇妙な事である。
 摂政の唐名や「関白」や新案から一つ選び、速やかに改称すべきであろう。
「子曰 必也正名乎」(『論語子路篇より)