Phirip Carter & Ken Russell著 日本語版制作スタッフ訳『MENSA メンサ 超難問パズルに挑戦!』(青春出版社・2000)

MENSA(メンサ) 超難問パズルに挑戦!

MENSA(メンサ) 超難問パズルに挑戦!

評価 知識2 論理1 品性3 文章力1 独創性2 個人的共感2
 翻訳者の名前が、表紙にも巻末の書籍情報にも掲載されていない。だが当書評が批判する本書の欠点には翻訳者に原因があると感じられるものが多かったので、私は5ページの「はじめに」に登場する「日本語版制作スタッフ一同」という連中を翻訳の責任者と見做す事にした。
 後述する諸々の欠点から見て判る通り、スタッフ一同は翻訳の能力は低い。加えて知能指数も相当低いせいか多くのパズルの趣旨が理解出来なかったらしく、これが翻訳を更に下手なものにしてしまっている。
 元々高い知能指数の人々が集まる組織への加入試験として作られた問題群なのであるから、翻訳は高い知能指数を持った翻訳家に依頼すべきであった。だがそういう人間を雇うには高額の費用が必要となる。おそらく青春出版社は吝嗇精神を発揮して自社の馬鹿な社員達に無理矢理機械的な翻訳をさせたのであろう。
 以下、具体的な批判を開始する。
 まず、問題文の意味を考えずに機械的に訳されたと思われる文が頻出する。
 例えば19ページの「シアーズ・タワー」では、「シアーズ・タワーとして知られていますが、高さは225メートルと、その建物の高さの半分を足したものです。」とある。ここに登場する「その建物」とは文脈上はシアーズ・タワーである事は明らかなのだが、こういう場合普通の日本語では「その建物」よりも「この建物」とするべきであろう。「この建物自体の」とすれば一層良い。
 翻訳者がパズルの趣旨を理解していなかったために、奇妙な問題文になってしまったものも多い。
 例えば27ページの「アルグラーブの会合」では、「7人全部が最短距離で会うためには、どの場所で落ち合えばよいでしょう?」とある。掲載されている図を見ると、「7人」は町のあちこちに住んでいるので、「全部が最短距離」である集合場所は物理的に有り得ない。「7人の移動距離の合計を最短にするためには、どの場所で落ち合えばよいでしょう?」等の聞き方をすべきなのは一目瞭然だ。
 これと同種の間違いが44ページの「座談会」にもある。「この4人のいずれからも一番遠くに座るには」とあるが、そんな条件を満たすのは不可能である。解答を参照する限り、これは「この4人との距離の合計が最大になるように座るには」といった言い回しをすべきであった。
 71ページの「スキーリフト」は、「このスキー場のリフトには、乗り降りする場所が10ヵ所あり、どの2駅間でも1枚の切符で行くことができます。(原文改行)スキーヤーがどこからも乗り降りしたいと思ったら、何枚の異なるチケットが必要でしょうか?」という短い問題である。「切符」と呼ばれていた物品が「チケット」へと変貌している事についてはさて置く。これは143ページの解答では正解が90枚になっているので、「乗り場と降り場のあらゆる組み合わせを経験したいと思ったら、何枚の異なるチケットが必要でしょうか?」等と聞くべきであった。
 翻訳の際に必要なのは文化の差異を考慮する事であるが、そういった配慮も感じられない。
 例えば11ページの「席替え」では、男女各五名の計十名の人物が登場するのだが、登場人物達の誰が男性で誰が女性かが書かれていない。英語圏の読者ならば名前を見ただけで瞬時に常識的に判断出来るのであろうが、日本人読者としては辛い所である。
 17ページの「ラスベガス」は、サイコロを使ったギャンブルの問題であるのだが、驚いた事にそもそもこのギャンブルのルールが書かれていない。ただ「ラスベガスの賭けを始めようとしますが、」と書かれているだけである。これも「ラスベガスの賭け」とやらに慣れ親しんでいない人向けに、注釈が欲しかった所である。
 上記のどの失策が原因かは不明であるが、とにかくパズルの体を成していない問題群も紹介しておく。これらについては、原著者の方が悪い可能性もある。
 26ページの「家探し」では、「彼の家を探しあてるために、私はYes/No式の3つの質問をしました。」と書かれ、続いてその質問が紹介される。そして「アーチボルトの家番号がわかりますか?」と聞かれる。意味が不明だったので132ページの解答を読んだところ、何故か「私」が3つの質問でアーチボルトの家番号を当てたのが前提となっていて、その前提に基づく論理構成の結果として「64、これがアーチボルトの家番号です。」と締め括られていた。
 39ページの「ハンカチでチャレンジ」は、チャーリーがベンに「挑戦を試み」た話である。挑戦の内容が紹介された挙句、「どうしたら、そんなことが可能でしょうか?」とあるが、誰にとって可能なのかが書かれていない。そして135ページの解答では、チャーリーが賭けに絶対勝つ方法が書かれていた。
 問題はそこそこまともだが、解答がおかしいという事例も多い。
 まず42ページの「給料値上げ」は、ドルを単位とする問題であるのに、136ページの解答には「ポンド」という表記が混じっている。
 48ページの「賭けゲーム」は、賭け金が常に持ち金の半額であるゲームで六勝四敗した「ジム」の物語である。彼の持ち金が8ドルから5.70ドルに変化した事について、「どうしてこんなことが起こったのでしょう?」と聞いている。これは単に8に1.5の6乗と0.5の4乗を掛けて小数点第三位で四捨五入すれば5.70になる事を確認すれば良いだけの話なのに、138ページの解答では何故か「結局のところ、ジムの勝ち負け数は、最終的な金額とは関係ないのです。」とかいう意味不明な結論が書かれている。
 51ぺーじの「失われた時間」は、時計の文字盤が割れてしまい、各破片上の数字の合計が同じになったというものである。これは、6枚に割れて各々計13になった場合と、3枚に割れて各々計26になった場合と、2枚に割れて各々計39になった場合とが想定されるが、139ページの解答では3枚に割れた場合のみが掲載されている。
 60ページの「鳩の行方」は、最大重量20トンの橋を、空ならば20トンのトラックで渡ろうとしている運転手が登場する。そこで運転手は積み荷の鳩を全部トラックの中で止まり木から飛ばせてから渡ろうとした。問題内容は、運転手の判断が正しかったか否かである。これは仮に積み荷が密閉されていなくても、そして橋を渡っている最中に仮に鳩が延々と飛び続けても、運転手と止まり木の重量がトラックに加わるのでアウトであろう。ところが解答では、一応運転手の行為を間違いとしながらも、その根拠は「鳩の体重は、たとえ飛んでいても200ポンドです。飛ぶことで重量が軽くなったとしても、降りてくれば重量は重くなります。ですから、全体では重量は変わりません。」という、意味不明なものになっている。
 奇妙な解答の中には、こういった不正確・不十分なものとまでは言えないものの、随分と無駄な手間をかけたものもある。
 9ページの「偽造コイン」では、「ここに、不特定数の大きなコインが入った3つの袋があります。そのうち1つは55gの偽造コインだげが入った袋で、残りの2袋には重さ50gの本物のコインだけが入っています。偽造コインの袋を見分けるには、最低何回量る必要がありますか?」と聞かれる。そして126ページの解答は「1回で十分です。」と始まっている。ここまでは良い。だが「1つ目の袋から1つコインを取りだし、2つ目の袋からからはコインを2つ、3つ目の袋から3つコインを取り出して、6つのコインを一緒に量ります。」という量り方に無駄な手間がある。実際には最後の3枚は不要である。
 82ページの「5つの円」は、写真1の通り、5つの円の面積を一本の直線で二等分せよという問題である。A点が左下の円の中心点である事や、円の配置の縦横の距離が均等である事について書かれていないのは残念であるが、私はそれらの条件が常識的に前提であると仮に認めたとしても、なお解答に不満がある。
 146ページの解答では、写真2の通り、枠の外にもう一つの円とその中心点を書く事で二等分を成し遂げている。しかしこれは実に手間である。私ならば写真3の通りにする。B点を通るあらゆる直線は右の4つの円の面積を必ず二等分する。そしてA点を通るあらゆる直線は、左下の円の面積を必ず二等分する。ならばA点とB点を通る一本の直線を引いてやれば良い。この私の手法の方が、手間もかからないし、作図も枠外に飛び出ない。

写真1

写真2

写真3