瓜子姫と天邪鬼の話(師匠との共同作品)

 これは今年の夏に師匠と共に語り合って創った、瓜子姫と天邪鬼の伝説の背景分析である。「文字に纏めてブログで発表する」と約束してから何ヶ月も経過してしまった。書かないまま年を越すと祟りがあるような気がしたので、今から頑張って書く。
 瓜子姫と天邪鬼の伝説は、日本中にちらばっている。大体は以下の様な内容になる。 
 瓜から生まれた瓜子姫は老夫婦に育てられるが、天邪鬼に騙されて殺される(または帰宅が困難になる)。天邪鬼は瓜子姫の振りをするが、やがて見破られて殺される。その時に流れた血液によって、今でもある種の植物は不自然に赤い部分がある。
 この話の背景を探るため、我々はまず「村社会において「天邪鬼」呼ばわりされるのはどんな人物か?」 を考えてみた。
 村社会で天邪鬼呼ばわりされるのは、皆が熱狂している時に空気を読まずに反対意見を言う人物であろう。例えば皆が「祭をするぞー!」と盛り上がっている中、「備蓄を鑑みるに、今年は祭を中止しなければ冬を越せまい。」と主張する人物である。
 こういう人物は大概は所謂「村八分」にされてしまう。そうすると村はある種のフィクションで成り立つカルト集団と化す。やがて現実に復讐されても、誰もが天邪鬼に下された制裁という「判例」を思い出してしまい、中々意見を変えられない。第二次世界大戦中の日本の参謀本部も、これと大同小異だったであろう。
 余談になるが、こういう話をすると日本の村社会が世界的に特殊であると誤解する者もいる。そしてやたらと日本を罵るか、逆にその「空気」を日本の失敗の情状酌量の材料にしたりする。しかし『風と共に去りぬ』でも、南北戦争開戦直前と直後の南部における、馬鹿げた主戦論の熱狂とそれに反対する天邪鬼の排除の状況が描かれている。
 続いて「瓜子姫の村における公認された虚構とは何か?」について考えた。
 それは「老夫婦の娘は瓜から生まれた」である。老婆が娘を産む可能性は低いし、仮に産んだのならばその前後の社会的活動は鈍る筈である。この合理的推論を排除するために、それ以上に非合理的な虚構を無理に設定し、皆でそれを信じた振りをしていたのである。そして瓜子姫は箱入り娘なので、本気でその虚構を信じていた。
 老夫婦が少なくとも一親等ではない子供を一親等であるとして育てていた理由は謎である。瓜子姫と天邪鬼の物語には花嫁に行くパターンもあるので、或いはやがて貰う結納品の価値を高めるため、家柄を少しでも高く設定したのかもしれない。あるいはまた、「家事手伝い」の名目で無償の機織作業に従事させるためであったのかもしれない。
 そこへ天邪鬼がやってきて、瓜子姫の出生に関する事実を告げる。「瓜子姫が死んで天邪鬼(固有名詞)がその外見を真似て入れ替わった」というのは、実は「瓜子姫が自分の出生に関する事実を知って、虚構を信じない天邪鬼(普通名詞)になった」という事だったのである。
 だが老夫婦は、新たな虚構として「瓜子姫が死んで天邪鬼(固有名詞)がその外見を真似て入れ替わった」説を採用し、言う事を聞かなくなった瓜子姫を惨殺したのである。そして虚構を村に押し付けた。
 しかし現実までは変えられない。死体から流れた血は、妖怪の体液とは到底思えない、人間の赤い血だったのである。その動かぬ証拠が、いつまでも村を告発しているのである。

風と共に去りぬ (1) (新潮文庫)

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