『寄生獣』はオウムの末路を予言していた。――徒党を組んだ人類の強さ――

 『寄生獣』という漫画がある。Wikipediaの記事(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%84%E7%94%9F%E7%8D%A3・最終閲覧日時は西暦2015年3月17日午前8時)によると、月刊アフタヌーンの1995年2月号まで連載は続けられたらしい。最近アニメ化・映画化されて、再注目されている。私も再注目した者の一人である。
 地球環境を守るには人間を減らすしかないと、どこかで誰かが考えた所から話は始まる。そう考えた主体は、世界中に寄生生物の種を蒔く。この生物は人間の脳に侵入し、その人間と入れ替わるという特性を持っている。彼等の本能は個体の維持と人間を食い殺したいという欲望のみであり、行動はかなり単純である。彼等は人間社会に紛れ込み、こっそりと人々を食い殺していく。彼等の知能と戦闘力は非常に高く、一対一では人間に勝ち目はない。彼等を利用して人間を減らし、地球環境を改善しようとする政治家まででてくる。
 だが政府も彼等の情報を徐々に蓄積し、ある時点から急激に反撃を開始する。寄生生物に乗っ取られていた市の問題も、特殊部隊を市庁舎に送り込む事で、かなりの犠牲を払ったとはいえ瞬時に解決してしまう。
 この市庁舎の戦いにあっては、特殊部隊の方でも法を半ば捨て、情を完全に捨て、一般人を巻き添えにした激しい掃討戦を行う。この種の「戦ううちに相手に似てくる」という現象も描かれていた。
 その後は、生き延びた寄生生物達も目立った行動は控え、ひっそりと人間社会に溶け込む。
 作者の描写はいつも淡々としており、特定の登場人物の主張に肩入れする事は稀である。だからこそ、この物語を通じて、読者は自由に「人間とは何か?」について考える事が出来るのである。
 
 この連載が続いていた頃、オウム真理教が急成長していた。彼等もまた、物質文明に行き詰まりを感じ、それを何とか変えようとしていた連中である。そして厳しい修行を通じて、人を殺す事に罪悪感を感じない信者を量産していたのである。洗脳が終わった後の信者は、見かけは元の人間と同じである。しかしその脳は、既に知能以外の面では人間らしい脳ではなかった。そしてオウムは好き放題にこっそりと人を殺し、闇に葬っていった。当初は一般人には勝ち目が無かった。
 だが政府も彼等の情報を徐々に蓄積していた。『寄生獣』の連載が終わってから数か月の間に、オウムの幹部は次々に逮捕されていった。
 ただしこの戦いの中では、普段なら行われる筈の慎重な捜査が蔑ろにされていった。戦ううちに相手に似てくるという現象は、ここでも存在した。
 その後は、オウムの残党は各地に潜伏し、目立つ活動は控えている。
 
 こうした流れを比較すると、『寄生獣』はオウム事件の顛末を先行して比喩的に物語った予言の書に見えてくる。
 私はこの作者の能力を所謂「超能力」とは見做さない。人間や人間社会について深く考察している人物が、「人間の顔をしていながら人間らしい心を持たない集団が突如発生し、彼等が人類社会に挑んだらどうなるか?」という設定の下に、リアリティのある展開を描いたので、自然に近未来の現実の事件の顛末に似た物語が出来上がったのだと思う。
 未来を予知する能力を授かりたかったら、カルト宗教に入って修行するより、しっかりと勉強をする方が近道なのである。
 
 あと、カルトの構成員の中には、一般人の「ひ弱さ」を馬鹿にしている者も多いだろう。だが度が過ぎれば、怖ろしい反撃が待っている事を肝に銘じておくように。

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