大川隆法著『生命の法』(幸福の科学出版・2008)は、教団の急激な変質の過渡期の作品である可能性が高い。

 幸福の科学は、その振る舞いを遠くから観察していると、フライデー事件で一旦世間一般の平均的な価値観と大きく対立し、その後しばらく大人しくなり、2009年からまた急に政党・学園・大量の霊言の三点で世間と対立を始めたように見える。
 ただしこれを内側から見ていた「Tちゃん」(イニシャル化は私によるもの)という内部改革派の信者が綴っていた某ブログ(現在は消滅)によると、2009年の少し前から教団はおかしくなったのだそうである。
 この見解の証拠となるかもしれない書籍を私は最近入手した。大川隆法著『生命の法』(幸福の科学出版・2008)である。

生命(いのち)の法―真実の人生を生き切るには (OR books)

生命(いのち)の法―真実の人生を生き切るには (OR books)

 この本の第1章は2006年末の講演が元になっている。
 この章の内容は実に見事である。
 要約すると、「価値観は多様であるから、諸価値に流されていると、長ったらしい『冬のソナタ』の主人公の様に、逡巡して時間を失う。だから自分なりの理念を作って、それに従え。そして何かを得るには何かを諦めなければならないことを理解せよ」というものである。
 短く纏めてしまうと「何だそれだけの事か」と思う人も多いだろうが、この単純な作業が出来ていないために惑い続ける人は実に多いのである。
 その惑いの構造に気付くだけでもかなり有能であり、しかも新興宗教の教祖でありながら「だから私の言いなりになりましょう」とは言わず、自分で規律を作る事を推奨している。これは凄い。
 信者に連れられてこの講演だけを一回聞き、その後は特に幸福の科学と関わらなかった人の中には、その後は合理的に行動するようになって人生が一気に好転したという人もかなりいるのではなかろうか?
 ここで示されている考え方は、大学の教養課程程度の倫理学と経済学の融合であるので、流石に自称として有名な「人生の大学院」は自画自賛に過ぎようが、「人生の教養課程」程度の価値はあるだろう。
 余談であるが、自作の規律の効用について、私が一つこれにつけ加えるならば、それは「自分が万能でないと気付き無駄な後悔もなくなる」というものである。
 例えば「迷ったら余命の長そうな方を救う」と決めておけば、いざ白髪混じりの中年を見殺しにして救った黒髪の若者が結局は翌日に事故死しても、「自分はあの瞬間の期待値計算に従って出来る限りの事はした。」と思う事が出来る。「あの時ああしていれば、」という発想を単なる妄想的な仮定として退ける事が出来るのである。
 第2章はこれより古い、2005年中旬の講演である。
 これは1章ほどではないが、新興宗教の教祖が語る自殺予防論としては十分に合格点をあげられた。
 一つ驚いたのは、「見栄のために事業を拡大しようとして借金経営なんかするな」という主張が書かれていた点である。最近見聞きした幸福の科学系の会社の倒産の事例は、「無駄な設備投資の挙句の急死」というものばかりだったので、まさか大川隆法氏がこんな事を言っていたとは思いもよらなかった。
 と、ここまでは良かったのだが、第3章以降はずべて2007年に語られたものであり、内容たるや神や悪魔の話が満載で、信者以外の者にとってはほぼ無価値の主張ばかりが並んでいたのである。
 以上により、教祖の中で何かが変わったのか、それとも有能な助手が消えたのか、あるいは他に何か理由があるのかはともかく、とりあえず2007年初頭あたりが教団の変質の時期だったのではないかと仮説を立ててみた。
 あくまで一冊の本と消えたブログからの推測であるので、まだまだ薄弱な仮説である。
 興味のわいた方は是非この研究を受け継いで頂き、仮説を倒すなり補強するなりしてみて欲しい。
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