幽霊はここにいる

幽霊はここにいる・どれい狩り (新潮文庫)

幽霊はここにいる・どれい狩り (新潮文庫)

 安部公房の戯曲に『幽霊はここにいる』という作品がある。
 霊が見えると称する男の言動が、周囲の意思によってやがては一大産業を生み出してしまうという内容である。
 未成年の頃に初めてこれを読んだ時は、現実味を感じられなかった。著者の資本主義批判の作品群の中でも、批判と言うよりは誹謗に近い、最低ランクの作品に思えた。
 ところがつい最近、恥ずかしながらブームが去ってから知ったのだが、霊が見えると言い張る男がテレビで活躍し、放送業界の倫理をめぐって社会問題にもなったらしい。こうしてまた私は、改めて安部公房の偉大さを思い知らされた。


 それにしても何故こうした現象が発生し続けるのだろうか?実は最近、この理由を解明するためのヒントであるかもしれない情報を発見した。
 読売新聞の最新アンケートによると、何らかの宗教を信じてないと答えた人は72%らしい。しかし死者の魂が消滅すると答えた人は18%しかいなかったらしい。
 してみると相当数の日本人は、少なくとも現在は特定の宗教団体が真理を完全には解き明かしていないものの、唯物論もまた間違いである可能性が高いと思っている事になる。
 ここに新興宗教や霊能者の出現の余地がある。科学や伝統宗教への漠とした懐疑を持ちつつも、その懐疑が主義や手法として体系化されていない者に対し、今度こそついに本物が登場したと言い張れば良いのである。